カーボンニュートラルへの政府の取り組み(日本)

カーボンニュートラルへの政府の取り組み(日本)

カーボンニュートラルとは?

 カーボンニュートラルとは、二酸化炭素排出量をトータルでゼロにする考え方のことです。具体的には、「二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」 から、植林、森林管理などによる「吸収量」 を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること*1」を意味しています。

引用:

*1) 環境省脱炭素ポータル:カーボンニュートラルとは – 脱炭素ポータル|環境省 (env.go.jp)

 欧米のメーカーをはじめとし、先進国を中心にカーボンニュートラルの風潮が高まっており、各国の企業(特に排出量の多いメーカー)は各社、カーボンニュートラルの目標を発表するなど、取り組みの高まりは今後も続くと予測されます

言葉は先行する一方で、トップ企業を除き、取り組みはまだまだ手探りな部分も多く、社会の潮流を読み切ることは難しく、素材メーカー各社もどういった性質の製品・プロセスに注力すべきか思い悩んでいるかと思います。

 本記事では、”カーボンニュートラルへの取り組み”の第1段ということで日本政府のカーボンニュートラルの取り組み方針についてご紹介したいと思います。好評であれば次回以降、海外版(米国編、欧州編、各国企業編)も書かせていただこうと思います。

素材メーカーはカーボンニュートラルに取り組むべきなのか?

 結論、取り組むべきと思います。企業規模やビジネスモデルにも寄りますが、現状の潮流から、素材産業であれば現状取り組んでいなかったとしても何かしらの形で取り組む形になると思われます。カーボンニュートラル対応は投資含めて、長期目線での戦略的な判断が必要になるため、いざというときのために、小規模化学メーカー含めて、考えておくべき事項と思います。

 また下記に3つの視点から、カーボンニュートラルに取り組むべきかを書かせていただきましたが、結論としては「ビジネスチャンスになり得るものの、いかに戦略的に投資できるか?」がポイントになると思います。そのため、後半の目次の「日本政府の取り組み」でも政府は各種支援策を検討しているものとみられます。

カーボンニュートラルはビジネスチャンスとなり得るのか?

 結論としては、チャンスであるが、リスク管理が重要。企業のケイパビリティ、製品特性にも依存するため、一概には言えませんが、日経クロステック掲載のアンケート、中部経済連合におけるアンケートでは約70%の企業担当者がカーボンニュートラルをビジネスチャンスと捉えていることがわかります。一方で素材産業は装置産業かつ、製品の切り替えに時間がかかる業界のため、投資金額が莫大になることが想定され、長期的な戦略を立てた上での投資戦略が必要とされます。ビジネスチャンスと捉える一方で、各社多額のコストを課題と捉えているようです。

 特にカーボンニュートラルについてはグローバルの基準がまだ確立していない状況のため、国際的なルール形成のモニタリングは重要な要素となります。

出展:

「チャンス」か「コスト」か、炭素中立に揺れる日本の製造業 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

「カーボンニュートラルに関するアンケート調査」を発表(2/1)|一般社団法人 中部経済連合会 (chukeiren.or.jp)

素材産業の社会的責任はあるのか?

 JCCCAが発表した日本の産業別二酸化炭素排出量のデータを参照すると産業排出(いわゆる工場からの排出量)が発電産業を除くと1位となっており、全体の1/4を占める割合(直接排出を想定)となっております。上記ファクトからもカーボンニュートラルは素材産業(プラント産業)が取り組むべき課題ということが言えます。

出展:

4-04 日本の部門別二酸化炭素排出量(2020年度) | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター

カーボンニュートラルに取り組んだ場合、どんなメリットがあるのか?

 結論、メリットは大きいと思われます。一方でやはり必要な投資については一定のリスクを孕むと言えます。各ステークホルダー別に取り組んだ場合の影響を見ていきます。

・顧客(川下産業)

 最近では素材産業の顧客(川下企業)においてもスコープ3まで考慮した二酸化炭素削減が大手企業を中心に始まっており、川下産業目線ではすでにカーボンニュートラルへの要求が始まっているフェーズとなっております。

先進企業の事例として、ファーストリテイリングはパリ協定における2050年までの温室効果ガス排出量削減目標を尊重し、自社の店舗、サプライチェーン、商品使用における温室効果ガス排出量削減へ取り組むことを発表。

また実際に、服に使われる繊維に再生繊維を採用すると報じられており、素材産業への要求も今後拡大していく可能性があります。

出展:

参考:

LCAのスコープについて

環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ (env.go.jp)

・投資家

 サステイナブルファイナンス、ESG投資など、環境に配慮した各社の活動に対して投資する動きが数年前より話題となっており、企業価値評価の一つとして「環境対応」が組み込まれるケースが増えてきています。

 世界的なESG投資規模については世界持続的投資連合(GSIA)の調査より、35.3兆ドル(約3,900兆円/2020年)だった一方で、ESG投資の基準見直しなど、今後の市場規模拡大の伸びは減速する可能性を参考記事では記載している(日経新聞より引用*2)

出展:

*2) 世界のESG投資額35兆ドル 2年で15%増: 日本経済新聞 (nikkei.com)

日本政府のカーボンニュートラルへの取り組み

 サマリとしては、省庁間、民間をはじめとして資金支援、ルール作り、エネルギー転換施策、DX推進などの複数施策が走っているものとみられます。日本のグリーン社会実現の取り組みは首相官邸のHPにまとめてあります。

参考:

グリーン社会の実現 | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

ただし上記リンク以外にも関連する施策は複数発表されており、カーボンニュートラルの詳細な施策全般を把握するのは非常にわかりづらいと感じました。

グリーン成長戦略

 上記グリーン社会への取り組みの一環として、METI(経産省)はグリーン成長戦略を策定。その中で2050年カーボンニュートラルの実現を掲げ、各種方針を出していますまた素材産業関連だと新・素材産業ビジョンで方針が発表されており、「グリーンマテリアル産業への転換」が求められています。大きく分けると筆者が読んで独断と偏見で下記5つに分類しました。

出展:

20220428_1.pdf (meti.go.jp)

・ルール形成

 製品・技術における国際的な標準化を戦略的に推し進める旨。同時に二酸化炭素排出量の測定基準、国際的なカーボンクレジットの取り組み等について、国際的な議論に積極的に参加することでグローバルで公平な条件獲得ができるようにする方針を掲げています

・資金支援

 素材産業では製造プロセスにおいて、水素還元製鉄やアンモニア燃料型ナフサクラッカー、CCUS、ケミカルリサイクル等、取り組むべき研究テーマが多く存在。投資額も莫大なため、他国と比較して遅れがでないよう社会実装に向けた支援を継続的に行う方針。一足飛びにカーボンニュートラルを実現できない業界についてはトランジション・ファイナンスなどの支援を検討。

・ベースエネルギーの転換(再エネ促進、水素アンモニア低コスト化)

 各種産業の生産プロセスの転換に伴い、ゼロエミッション電気、水素・アンモニアエネルギー源の安定供給体制などの整備を検討。

・サプライチェーン

 新型コロナウイルス、ウクライナ情勢など、社会的な課題が山積する中で、安定的な供給網を確保することが重要。電力高騰などの課題に対してはサプライチェーンを踏まえた民間企業間のコストシェアリング等が進められるよう政策検討を行うまたサーキュラーエコノミーに向けたリサイクル社会実現等を目指した際に、サプライチェーン全体での資源循環システムの強靭化が必要。

・DX推進

 従来の生産活動をより円滑に進めるためのDX推進は進められているが、新たな付加価値創造・サービスの創出といった観点からも推し進める必要があり、素材産業の場合、たとえばマテリアル・インフォマティクスによる新材料の開発、サプライチェーン全体での二酸化炭素排出量の最適化等、業界・企業の枠組みを超えた取り組みを進める方針。

総括

 ユニクロのようなto C企業もサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルを目指しており、川上の素材産業のカーボンニュートラルへの取り組みは待ったなしの状況になっているかと思います。

 政府は2050年カーボンニュートラル社会実現に向け、国、各省庁、民間企業間で連携し、複数の検討会を進めていますが、政府は少しでも日系素材メーカーが有利になる(有利でなくても損はしない)ような国際的ルール作り策定に積極的に関与していってほしいと思います。

 カーボンニュートラル社会実現に向けては、技術・資金・ルール作り等のバランスと社会的潮流を読みながら、判断することが重要と思います。今回はざっくりとした政府方針をまとめさせていただきました。詳細は各種リンクの出展・参考より、内容を確認ください。

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